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Episode #025

ちょちょちょ…
ちょっと聞いてくださいよ、マスター。

 

いやね。
私、この前の異動で天空の城勤務になりましたやん?ってこの前ってもう4年だか5年だかなりますけど。

 

そうそうネルゲル坊ちゃんが主管の天空の城ですがな。冒険者の連中は「冥王の心臓」とか言うてますけどな。んなもん心臓みたいにドックドック動いてたら住みにくくって仕方ありませんわ。アホいうたらあきませんで。
 

昔は結構賑わってましたけど、今じゃ冒険者もめっきり減ってもうて毎日閑古鳥が鳴いてますわ。こうなるとさすがにちょっと寂しいですな。

 

もうワテもすることがないですよって、ついつい暇つぶしにギガントヒルズやワイトキングと麻雀してますねん。
って、勤務時間に何しとんねんとか思てます?まぁそうですわな。

 

でもワテら基本的に悪魔ですやん?一生懸命に何かを生産するのはちょっと違うと思うんですわ。どっちかっちゅうと生産より破壊の方がしっくりきますやろ?
 

なんてったって悪魔ですもん。

 

でも、そない言うたかてなんでもかんでも破壊しまくり、好き放題暴れられるわけちゃうのはマスターならわかってくれますやろ?
 

冒険者の連中は結構ワテら魔族は好き放題やってると思うてますけど、実際は結構縄張りとか管轄とかうるさいですやん?
なんも考えずに人間やらなんやらを狩り倒して、うっかりドレアムさんとか災厄さんとかの縄張り荒らしてもうたら後で何されるかわかったもんちゃいますやん?

 

あの人らマジでキレたらハンパないんですわ。
 

ただでさえ乱暴者で回りピリピリしてますのに、ドレアムはんなんか人のこと「牛顔のくせにっ!」とか言いますねん。ちょいちょい毒吐きますねん。
ワテらに言わせたら、あんたこそ年中白目むいてますやんっ!ってとこですけど、そんなん言うたらボコボコにされますよって黙ってるんですわ。

 

昔はアトラスはんとかバズズはんとか話の分かる方も多かったですけどね。あの人らも今やすっかり閑職に追いやられて迷宮で碁打ってましたわ。

 

最近は外資系ちゅうやつですか?それともゆとり世代っちゅうやつですか?
 

キラークリムゾンとかイーギュアとかいう…。この前生協の前でうっかりばったり出くわしましたけど、目がヤバいですやん。話せばわかるって感じちゃいますやん。
あんなのに狙われたらこっちはいつも病院通いですがな。たまったもんちゃいますで。

 

ドン・モグーラはんなんか変な髪形言うただけでバンドメンバー引き連れて総出で襲撃してきますねんで。
 

もうちょい余裕というか温かみっちゅうもんが欲しいですわな。世の中思いやりが一番とか言いますやん。住みにくい世の中になりましたわ。

 

って話がそれましたな。

 

本題はうちのボス。
そうそうネルゲル坊ちゃんですがな。

坊ちゃん言うたら本人ゴリラみたいになって怒らはりますけどな。

 

普段はあの人、魂食うてますねん。
魂っちゅうか、霞みたいなもんですわな。

そんなもん腹の足しにならへんのそこらの小学生でもわかりますわ。
でもめっちゃ偏食家ですねん。

固形物たべませんねん。口にするもん言うたら基本は人の魂だけ。鼻だか口だかからすぅ~~~っいうて吸い込んだら終いですねん。
たま~に血酒も飲まはりますけどな。
ああ見えて結構酒に弱いんで、基本なめる程度ですねん。

 

魂みたいなもんばっか食べてるから、あんな顔色してますねん。
妙に下まつ毛気にしてはりますしな。

 

いや。

 

まじ美形なんは認めます。
ワテもあんな顔に生まれてたら、魔族イケメンコンテストとかにでて、かわいこちゃんをとっかえひっかえ食いまくってますわ。
手足もスラーっとしてよろしいがな。足組んだ格好もサマになってますわな。ワテら足組んだろ~と思うたかて長さが足りませんねん。ホンマ世の中不公平やと思いますわ。

 

え?実際最近色っぽい話ですか?

 

ありませんありません。
ちょっとこの前チャットでいい感じの子みつけましたけど、会うたらピンクいトロルですやん。

 

いや、実際に会ったわけとはちゃうんですけどな。
 

初めて会うのってちょっと緊張しますやん?待ち合わせ場所の近くで張り込んで、どんな奴が来るか確かめとったんですわ。
そしたら、なんかごっついアクセサリーメッチャつけ倒した厚化粧のトロルですやん。

そらジュリアンテはんとかまでは期待してませんでしたで?

でもトロルはないですわ~。しかも明らかに向こうの方が強そうでしたし。うっかり押し倒されたら抵抗できませんやん。
そんな輩にワテの貞操奪われたら泣くに泣かれへんっちゅうか、さすがにワテも立ち直られへんと思いましてん。

 

ワテ、こう見えてちょい亭主関白よりが希望なんですわ。

 

ってまたまた話それましたやん。
マスターが横からいらんチャチャいれますよって話が脱線してまうんですわ。

 

ま、ええんですけどね。

 

ほんでワテらが上司、ネルゲルはんですけどな。

ホンマはやったらできる人やと思うんですわ。
変に気取ってないで、現状ちゃんと見つめなおして努力したら、の話ですけど。

もちろんちゃんと好き嫌いなくメシも食わなあかんと思いますし、きちんとトレーニングもせなあかんと思いますけどな。

 

でもそういうの全然好きじゃないんですわ。
そこがネックちゅうか伸び悩みの根っこなんですけどね。

 

この前も冒険者来ましてん。
リーダーっぽい奴はそんなでもないんですけど、後ろにいる奴らがなんやメッチャいやな感じの奴らでしてん。

両手に黒光りするハンマーもって天下無双とか、大斧振りかぶってなんちゃら魔斬とかね。
 

昔は冒険者も結構空気読んでくれましたけど、最近は全く遠慮がありませんねん。いきなり丸焦げレベルの強化力ぶち込んできますねん。

 

坊ちゃんも最初っから必死のぱっちで本気出してくれたら少しは違うかもしらんのですけど。
普通にすかした感じで様子見ますねん。

 

そしたらボッコボコでしょ?

たぶん内心「これアカンやつや~」とか思わはるんでしょうな。
途中でワテら呼び出されますねん。

 

そりゃね。
 

上司がピンチってなったら部下としては飛んでいきますわな。ちょっと朝からお腹の具合が悪いとか言うてられませんわ。上司助けるために必死の覚悟で飛び出していったんですわ。

 

そしたら坊ちゃんったら何しはったと思います?

 

戦場にワテら残して、すい~って玉座に戻らはったんですで。信じられます?
 

ワテ、自分の目を疑いましたがな。思わず二度見しましたもん。

この期に及んで大物感ってやつです?ポテンシャルは認めますけど、今は泥臭く頑張らなあかん時ですやん。冒険者の目、明らかに獲物を見る目ぇしてますやん?
 

食うか食われるかっちゅう時に調子こいてる余裕なんか1mmもありませんわ。

てっきり一緒になって頑張ってくれるもんと思って飛び出した部下を見捨てて、玉座で頬杖でっせ。指パッチンしてる場合ちゃいますやん。

 

そらもう

 

「やれ」

 

言われましても、

 

「あ、はい」

 

みたいな答えになりますやん。

案の定ワテらいいようにボコボコにされましてな。
 

そないなってから、自慢の鎌を振り回したって時すでに遅しですわ。イケメンのプライドかなぐり捨てて、ブチ切れゴリラ顔になってももうワテらスリーアウトでチェンジでしたもんね。見守るしかできませんやん。

 

「ほら、言わんこっちゃない」

 

とは言いませんよ、言いませんったら。

でも、せっかく坊ちゃんいいもん持ってるんですからね。
もうちょっと気取ってないで本気出して頑張ってほしいと思うのはあかんことですかね。

 

てかこの前のイケメンコンテストだかなんだかで、あの人うっかりだかちゃっかりだかエントリーしてましてん。
結果もそこそこえーとこまで行ったみたいです。ほんま、ワテかてああいう病弱な感じのイケメンに生まれたかったですわ。

 

なんでワテ、こんな牛顔ですねん…。

筋肉質言われますけどずんぐりむっくり体形じゃマッチョもへったくれもありませんわ。
 

てかなんでワテらズボンはかしてもらえませんのん。支給されてるユニフォームが長靴だけって、総務課の連中の趣味ってどうなってますのん。これ、改善要求してもええとこですやろ?

 

あ~もう!マスター、テキーラおかわりっ!
今日はとことん呑みますねん。たまにはこないな日もないとやってられませんわ!

 

PLLLLL…

 

って…あれ?
LINE入りましたやん。え~っと…明日のシフトは7:00~22:00に変更?マジですか?朝から通しですか…。7連勤やったで久々の半休もらえる思て羽伸ばしてたのにっ!
ホンマいきなり人のシフト変えるンもなしやと思うんですけど…。

 

ちょっと労働監督局に苦情いってこよかな…
でも、下手に異動になってグラコスはんとかディーバはんとかにあたってもうたら、ワテ泳がれへんのに冒険者と一緒に水流にやられたらたまったもんちゃいますしな。

 

ジュリアンテはんやったら最高ですけど、マリーンはんにあたってもうて下手にそないな空気になってもめんどくさいしな…。

 

は~…結局今の職場で頑張るしかないんですなぁ。
たまに出張でいく魔幻迷宮で羽伸ばすしかないんですかねぇ。

 

漆黒の帳がおろされたとある街角。
冷気がそよぐ風に乗って肌をさす。蝙蝠をモチーフにした街灯から射す紫光が湿気を帯びた石壁を薄ぼんやりとおぼろげに照らし出していた。

 

アストルティアにあって誰にも知られざる街。
知られざる街の名もなき酒場。

 

こうしてまた夜は更けていく。

 

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