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Episode #018

私の名前はルナナ。

 

ってわざわざ名乗る必要なんてないわね。この美貌、生まれながらにしての品性と培われた高い教養、そして神がかり的な閃きと感性。

全てを兼ね備えた賢者なんて私以外にそうはいないもの。

 

でもまぁまだ私の名前が全大陸に轟くには至ってないけど。伝説の途中ってところね。ふふ。

 

しっかしあのアブラねんどたち、どこへ行ったのかしら。

暑いからジュースの一つでも買ってきなさいって言ったのに。サーマリ高原に一人こんなうら若き美女を待ちぼうけさせるなんてイイ根性してるわよね。

って、あら?
あれってリリアじゃない。いいわ、あの子にルーラストーンを借りて近くの町まで飛んでっちゃいましょ。

飽きたわ、ここ。

 

リリアー!リリアーって…なに貴女その陰気でしょぼくれた顔は。

 

私とは違って親しみやすい美人って程度の貴女がさらにそんな表情してちゃひっかかる男もひっかからないわよ!

 

え?なになに?

 

冒険で一緒になった男からヒドイことを言われた、ですって?

 

貴女そんなこと気にしてるの?

 

男なんて女に尽くすために存在するんだから、どんな状況でも女に暴言吐くような男なんて、存在自体が害毒なのよ。害毒!

わかる?公害みたいなもんよ。存在自体が迷惑ね。

 

ってなに?手紙もらったの?

お詫びっぽい手紙?なにそれ、わけわかんないわね。

 

だいたい後で詫びるくらいなら最初っから言うなっていうのよ。それともよく思われたいのかしら。どっちにしてもちっさい男ね。笑っちゃうわ。

 

ちょっとその手紙見せてみなさいよ。

 

ぷっ!

ちょっとこの人本気?

 

キツイお言葉を…って自分の発言に「お言葉」って国語が根本からオカシイじゃない。

 

ふふっ

ちょっと貸して。赤ペン先生やったげる。え?赤ペン先生って何ですって。どうでもいいのよ、そんなことは。

ちーさいことをイチイチ気にしないで、スルーしちゃえばいいのよ。

 

イイ女の条件その1。

華麗なるスルースキルを磨くこと。

 

いい?ここテストに出るわよ。

 

え~…

 

まずは「キツイお言葉を申し訳…」

この場合にキツイというのはどうかしらね。詫びるのであれば、相手の立場にたってキツイではなく、「ヒドイ」でしょうね。

 

そしてお言葉…

自分の発言に「お言葉」ってバカまるだしね。お気の毒さま。

 

この場合は「ヒドイ発言をして申し訳ございません」が無難でしょうね。

 

で、チームリーダーにも散々怒られたって、どうかしらね。

この時は貴女とこの人だけだったわけで、チームリーダーさんは貴女とは交流がない。つまりこの人経由で情報が流れてるってことだから、それでチームリーダーが叱責する…なんてケースにはならないと思うわ。

 

要するにこれはアレね。

私のチームは道理をわかってる人がいるんですよってアピールね。

 

くだらないわ。

 

もしくは「それはちょっとどうかと思うよ」と言われたことを「散々怒られた」と表現してるのかも。

 

自分の行為の落ち度を指摘されることに慣れていないのかもしれないわね。

 

ってなに?

私がそんなことをいうか?ですって?

 

あたりまえじゃない。

言うに決まってるわよ。私をこんなやつと同列に考えないで。

 

私に落ち度なんてないの。

もし私がミスをしたとしたら、それはそのミスをフォローしきれない周囲の落ち度なのよ。

 

ジョーシキよ。じょ・う・し・き。

貴女も機会があったら、ちゃんと私のために尽くすのよ。

 

で…なになに?

あの時は自分で回復…?

 

あ~もうめんどくささマックスね、この男。

自分は道理がわかってるとでも言いたいの?詫びるためのメッセージで何を言ってるのかしら。バカじゃない?

 

結局この試練はクリアしたんでしょ?

 

そしたらそれでいいのよ。

お疲れ様、で。あの時はこうすべきだったああすべきだったって自分のルールで人を縛るんじゃないの!

 

仮にもう少し良い方法があったとしても、それは状況次第で結果が変わるものでもあるんだから、「~~~という方法も良かったかも」程度に伝えるべきだわ。それでわかる人にはわかるし、わからない人には何を言ってもわからないのよ。

 

鋭く指摘する振りをして、自分の発言に酔っぱらってるナルシスト男だわ、この人。キモチワルイ。

 

だいたいなによ、この「~~やと思うが」って。お前はデボかっ!

 

この手の言葉を使う男にろくなのはいないわね!デボは気がつけば女の子の尻をおっかけてるし。この前なんか死闘を前にして用意した食べ物が「バトルステーキ」なのよ。アンタ僧侶でしょうがっ!って思わず突っ込んじゃったわ。

 

え?

もちろん私の手伝いをさせたのよ。当たり前じゃない。

 

デボだって、私のために尽くせて喜んでるわよ。手伝わせてあげたんだから、感謝して欲しいくらいだわ。

 

あ、噂をすれば…。

 

ほらさっさとルーラストーン貸しなさいよ。赤ペン先生はもうおしまい!

デボがくると煩いから、その前にとっとと飛んできたいの。

 

あ~もう。ガタラの石がないじゃない。まぁいいわ。メギストリスで勘弁してあげる。

 

じゃぁね、リリア。

かまってあげたんだから、今度きっちり働きなさいよ。

 

*****************************

 

「あれ?リリちゃん、さっきここにルナナちゃんいなかった?」

 

デボネアはキラーパンサーから降りることなく周囲を見渡した。

 

ルナナは数秒前に転移の秘石の力で飛んで行ってしまったのだが、その理由が「デボにあうとメンドクサイ」だとはとても言えない。

 

「あ、そや。リリちゃん。詰所でシャノとぽるちゃんが探してたよ。S級のまもの討伐手伝えってさ」

 

伝え乍らデボネアは夏の日差しの中、眩しそうに目を細めた。高原を渡る風が肌に心地よい。

 

「おっと。俺はそろそろ行かないと!アトちゃんとシェルさん、クーちゃんとガイアぶっとばしにいってくるねん。リリちゃんもまた今度手伝ってや、頼りにしてるで」

 

こちらの返事を待つそぶりも見せず、デボネアはキラーパンサーを駆って疾走を開始する。

なんとまぁ慌ただしくて騒々しい男だと改めて思う。

 

高原を渡る風が肩まで伸びた髪を優しくなでる。平素は凶悪なフォレスドンが跋扈する危険地帯だが、この日はその影も見えなかった。

 

「それじゃま、いきますか」

 

リリアは懐から秘石を取り出してその魔力を解放させた。

全身を浮遊の魔力が包み込む。

 

降り注ぐ夏の陽光の元、リリアの身体は光の帯となって飛翔していった。

 

彼女を待つ仲間の元へ。

 

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